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…ぼそっと独り言 36
<前置き>
この独り言にはある「秘密」が隠されていますが、
そのことは絶対に人には言わないでください(嘘)(^^;;;

<本 題>
その日はちょっと遅くまで残業した。疲れた私はふと温泉に入りたくなって、車を芦原温泉へと向けた。
芦原温泉まで車で5分。あたりまえの様でいて、これって実はすごく恵まれていることに気づいた。生活範囲に温泉があるという事実。都会では味わえない地元の魅力に、ちょっと誇らしげになった。

私は大衆用温泉「セントピア芦原」に入ると、男湯へと向かった。ここの温泉は浴場を「天の湯」と「地の湯」と二つ持っていて、週ごとに男湯と女湯が入れ替わる。今日の男湯は「地の湯」。私の好きなほうだった。

脱衣して浴場に入ろうとしたとき、入り口横に体重計があった。そういえば体重なんてここんとこずっと測ってない。学生時代は一人暮らしだったせいか(つまり食生活に気を使わなかった)、私の体重は身長に見合った標準体重であった。しかし実家に戻り、3食(なぜか昼・夜・晩)きちんと食べるようになり、体重が増加していることは分かっていた。そこで恐る恐る体重を測ってみることにした。


ガチャッ(乗った音)


………


どうやら体重計が壊れているらしい。
気を取り直してもう一度乗ってみた。


カチャッ(そっと乗ってみた)


………


どうやら最近視力が落ちたらしい。
腹をくくってもう一度乗ってみた。


カチャッ(目を凝らしてみた)


………


そして分かった。私にはシックスセンスがあるらしい。
そこには見えてはいけないおぞましい数値が表示されていた…。


~おしまい~


…ぼそっと独り言 37
今日は月曜日。今週末のチラシの原稿を仕上げるのに手間取り、ちょっと仕事上がりが遅くなった。しかしなかなかの出来栄えに自己満足。時計は午後10時45分。こんな日は温泉にでもつかり、身も心もリフレッシュするに限る……と、適当な理由をつけて私はいつもの芦原グランドホテルへと向かった。

ホテルに着き、入浴券を渡して入場した。1回800円だが6枚つづりの入浴券なら3000円。私はもうどれくらいこの入浴券を購入しただろう。このホテルへの入浴券での貢献度はおそらくトップ3には入るのではないだろうか。ただし、宿泊したことは……一度もない。

なにはともあれ例のごとく混浴露天風呂に入ると……男の酔っ払いの団体さんが7~8人。情緒もくそもへったくれもあったもんじゃないが、まぁ向こうは宿泊客、こっちは入浴のみ。文句など言えようもなく、私は私なりに楽しんで風呂から上がった。

時計は午前0時前。1時間近くのんびりゆったり入浴した私はすっかりご機嫌さんになり、さぁ帰ろうと露天風呂を出たとき、女性4人組とすれ違った。なんと彼女たち、混浴に入ろうかどうか迷っているみたいだった。私は横の椅子に腰掛け、彼女たちの会話にそば耳を立てた。

「どうしよう。なんか男の人いそう」
「でも、せっかくだし入りたいよね」
「せっかくだしね」
「でも……」

そこに掃除のおばちゃん登場。

おばちゃん「おねえちゃんら、今入ると男の人らでいっぱいやざ」
女性客「やっぱり。どうしよう。」
おばちゃん「夜中なら誰もいなくなるで、もうちょっと遅らせたら?」
女性客「じゃ、後で入りに行こっか。」

そして女性客は部屋へと戻っていった。おそらく彼女たちは大学の卒業旅行なのだろう。3月の平日はそういう女性客が多いのを思い出した。

--------------------------------------
こんなとき、あなたはどうします?
1.そのまま帰る
2.風呂場へ戻る

私は迷うことなく2番を選択しました。
--------------------------------------

再び露天風呂に戻った私はまず時間確認。現在午前0時ちょうどだった。ちなみに私の時計は200m防水のタグホイヤーなので、入浴時も寝るときもしっぱなしでほとんどはずさない。7年も愛用していて、もう私の体の一部分みたいなものである。
露天風呂にはもう誰もいない。女性が入浴するにはもってこいの環境だった。約一名、私がいるけれど(^^;
で、例の女性客らの行動を推測してみた。何時に露天風呂に来るであろう?


「私なら、30分後に様子を伺いに来るね」


その推測のみを心の支えに、私はひたすら露天風呂につかり続けた。


午前0時30分……しかし、彼女たちは来なかった。


「なるほど、まだ0時台だと入浴客がいるもんな。1時までずらしたわけか。」


その推測のみを心の支えに、私はひたすら露天風呂につかり続けた。


午前1時……………しかし、彼女たちは来なかった。


最初の入浴と合わせるともう2時間ちかくは湯船につかっている。もはや指先はしわしわにふやけ、脳みそは7割6分のぼせていた。しかし、ここまできたら帰るに帰れない。


「あと30分……1時半まで待とう……」


しかし私の気力より先にダウンしたのは、なんとタグホイヤーだった。200m防水のはずのタグホイヤーの文字盤に湿気が侵入。内側から曇っていた。




午前1時30分。結局女性客現れず。私は半身不随のタグホイヤーを抱きながら半泣きで露天風呂を後にした……。


~おしまい~


…ぼそっと独り言 38
今日は仕事の休みをとった。富山でホームページ作成ソフトDreamWeaver&FireWorksを5時間みっちり教えて
もらえる講習があり、最近このソフトでHPを作成している私は どうしてもこの講習を受けたかったのである。
しかし、前日の晩に商工会&友人という飲み会のダブルヘッダーをこなした私は、 朝から極度の二日酔い。
「このまま布団で寝ていたい……」そんな心地よい布団への 愛着を振り切り、朝10時、ふらふらと駅へと
向かった。

あからさまに二日酔い丸出しの顔をしながら、私は富山行きの雷鳥の往復切符を買うために 並んだ。
そして私の順番が来たとき、まるでテレビにでも出てきそうなおばちゃんが私の前に 割り込んで切符を
頼もうとした。二日酔いも重なってすごく嫌な気分がしたが、小市民な私は注意できない。
すると受付の駅員さんが
「すいませんが、こちらのお客さんが先ですので」
と制してくれた。当たり前のようだがその毅然とした態度がすごくうれしかった。

ともあれ切符を購入した私はホームに降りようとしたが、まず二日酔いを覚ますために 水分を取ろうと、
駅の売店横の自動販売機でお茶を買うことにした。
駅の自販機はコカコーラ系であった。お茶類の品揃えは「なごみ」と「爽健美茶」であった。 私はこの
「なごみ」が大好きなのである。特に最近新しくなった「なごみ」が!!
味がどうこうではない。CMがどうこうでもない。新しくなったなごみにはサブタイトルとして
「なごみ~緑茶~」と書かれているのである。

緑茶 ^^

笹原の一字を冠する緑茶(^^)

まるで私の緑茶(^。^)

私のための緑茶 \(^^)/

あぁなんて素敵なサブタイトル♪命名したコカコーラの市場調査社員に欽どん賞を贈りたいほど
Love'n You♪ そんな小市民的な理由で私はこの「なごみ」が好きなのである。
ややにんまりしながら120円をつっこみ「なごみ」のボタンを押した。

ガラガラッ

なぜか爽健美茶が出てきた。

………え?

……あれ?


おぅええぇぇぇぇ!!!!!!!「なごみ」を押したのになぜ「爽健美茶」が出てくる?
自販機の入れ間違いか?それとも私の押し間違え?ともあれ取り出し口には冷えた爽健美茶が

「ども、こんにちは。よろしく♪」

とばかりに待機していた。でも、売店のおばちゃんに「交換して」と言えない私は 仕方なく爽健美茶を
手に取り電車の中に持ち込んだ。

でも、爽健美茶もうまかった。

はと麦・玄米・月見草~♪

こだわりなんてそんなもの。小市民万歳っ♪


~おしまい~


…ぼそっと独り言 39
私が実家を継いでもう4年になる。継いだ当時は関西が恋しくて 仕方なかったが、4年という月日の中、ほ
ぼ福井県民に染まった 自分がいて、ちょっと悲しいやら安心したやらで複雑になる。

当時福井に戻りたくなかった理由はただ一つ。
「関西で出来た友達の輪から離れたくなかった」
それだけである。それくらい関西で出来た友達たちとは仲良く なったし、私の大事な仲間だと今でも思っている。
しかし実家を継いでもう4年。この4年で私にもここ福井でいろいろな 友達が出来た。中学・高校の同級生、飲み仲間、太鼓仲間、ネット仲間、商工会、仕事の友達。 どうやら私は友達運だけは強いらしい。こうして出来た福井の友達の輪も 私の宝である。

~ここから本題~

その仕事の友達の中に「前田さん」がいた。彼はトンボ学生服の販売員。 私より5~6歳年上なのに妙に腰が低い。色白痩せ型で温和な顔立ち。 温厚というよりやや弱気っぽいが、人には憎まれない性格で、うちの 店員にも評判はよかった。

私が継ぐ前、うちの店はもともと学生服販売はあまり強くなかった。客待ち型の店売り だったので、訪問販売を駆使する他店に負けっぱなし状態。200人以上が 入学する金津中学校入学式前に売れるのが5~6着と、中学学生服に関しては とても地域一番店とは言えなかった。
実家を継いだばかりの私はこの状況にびっくり。たまらず私も自ら訪問販売を 始めた(といってもDM配布&20秒程度の挨拶)。すると翌年の販売量が 40着近くにまで増えた。 びっくりしたのが取引先の福井トンボさん。急遽販売員をよこすようになった。 それが「前田さん」だった。

それからはこの前田さんとともに学生服販売戦略を練った。彼はまめな男であった。 「来年度の入学者名簿が必要だ」というと役場へ行き、全町民の戸籍謄本を調べ その中から今年度入学者を手書きで写して入学者名簿を作った。
「私一人では全入学者にDM&挨拶周りをしきれない」
というと
「じゃぁ私が半分やります」
と、(普通では考えられないが)うちの学生服挨拶回りを手伝った。 おかげで学生服販売は80着近くまで増えた。うちを訪れる販売員の中でも ピカイチの販売員だった。
しかも歳が近かったので非常に仲良くなった。飲みにも行った。人生論・恋愛論・仕事の話。 いろんなことを話し合った。

そんな彼が今年の2月から急に来なくなった。2月といえば入学式前の繁忙期。 福井トンボに尋ねてみると「体調を壊して入院した」とのこと。もともと痩せ型だったし、 疲れでもたまったのかな?そんな印象だった。

ところが入院は予想以上に長引いた。5月になってもまだ仕事に復帰してなかった。 ちょっと心配になった私はお見舞いにでも行こうと福井トンボに電話してみた。 すると、

「もう一応退院して今は自宅で療養中らしいですよ。でも、肺に水がたまるらしくって、 まだしばらく仕事には復帰できないみたいです。」

とのこと。なるほど、自宅療養中ならもうすぐ仕事復帰だな。じゃ、お見舞いに行かなくても いいか。そんな軽いノリだった。

そして9月末。うちの会社に1枚のFAXが流れてきた。福井トンボからだった。

「当社の前田兼治が今朝、肺ガンの為、逝去いたしました。通夜を……」



言葉を失った。



あまりにも予想だにしなかったFAXに動けなかった。




翌晩の通夜に参列した。写真は私の知っている前田さんだった。しかし 写真には黒い帯がついていて、祭壇の中には棺桶があった。

とりあえず焼香をした。

そして席に座った。

悲しいという感情より、呆けた感情と言ったほうがいい。涙も出なかったし
「前田さん、死んじゃったんだ……」
という感想しか浮かんでこなかった。ただ、帰る気になれなかった。私は一人 「一般席」と書かれた席に座っていた。

15分くらい座っていただろうか。

「すいません。兄の中学・高校のお友達の方ですか?」

と、弟らしき人物が私に話しかけてきた。

「いや、仕事の取引先で、仲良くさせてもらってました。」

私はそう答えた。すると彼は前田さんの弟であることを告げ、彼の闘病生活に ついて語ってくれた。

入院した2月の時点ですでに末期ガンだったこと。
その時、治る可能性は0%だと言われたこと。
彼は入院中に偶然、自分がガンだと知ってしまったこと。
闘病生活の中でも仕事を気にしていたこと。
末期は髪も全部抜けてしまって、見るに耐えなかったこと。

そしてその最期。

いつから流れ出したのかは分からなかったが、私は涙が止まらなかった。 嗚咽は周囲に響き渡り、みなの視線が集中したが、どうしても泣き止むことが 出来なかった。

すると前田さんの母がやってきて、また彼の話をしてくれた。 私にこんなに涙があったのかというくらい泣いた。やっぱり止まらなかった。

33歳。早すぎる死。しかしやはりそれも運命なのだろうか。

ようやく泣き止むことが出来た私はもう一度、彼の棺桶の前に行き、 彼の棺桶をポンポンと叩いた。

「じゃあね、前田さん。」

再び出てきた涙も、やはり止めることは出来なかった。



~終わり~


…ぼそっと独り言 40
「秋の夜風」

9月の猛烈な残暑も終わり、もう10月。夜は心持ち涼しく、 おそらく1年で一番過ごしやすい秋となった。 こんな気持ちのいい夜はワインでも飲みながらパソコンを いじるのが至福といっていい。

秋の夜風を部屋に流し込もうと、私は窓を全開にした。 うちの窓は大きさが特殊らしく、網戸がはまらない。 だから虫が部屋に入るのを嫌って、私はあまり窓を開けないのだが ここまで涼しくなると虫も活発に活動しないらしい。 部屋には涼しい風が流れ込んできた。

風の流れをよくするために部屋の入り口の扉も開けた。 こうすると風の流れに道が出来て、よりいっそう涼やかな風が 部屋中を流れる。こうして私は、しばらく秋の夜風を楽しんだ。 秋の夜の至福。心地よく酔っ払った私は「福井っていいなぁ」とか 思っちゃったりした。


とこっ とこっ とこっ


ん?誰かの足音。


じい様だ。 風呂に入ろうとしていたじい様は、その通り道にある私の部屋の 扉が開いているのを見て、ここぞとばかり侵入してきた。


そして、昔話スタート。


わけのわからぬ呪文のような昔話に私の脳みそは凍結した。 秋風を部屋に取り込もうとしたら、じい様まで取り込んでしまった。


……じい様、もう勘弁してください………


私の願いが通じたのか、5分ほど独話会を楽しんだじい様は
「じゃあ先に風呂に入るぞ」
と部屋を後にした。 そして部屋を出る瞬間



ぶっ



それは肛門が5~6回程度振動したくらいの重厚な排気音であった。 そしてその排気臭は秋の夜風に流されて私を包んだ。


じい様は85歳。「今すぐ俺が引導を渡してやる」って思った。




~終わり~