私は大学時代、競技スキーのサークル「アルカディア」に所属していた。他の例に漏れずこのサークルも
悪ふざけが大好きで、高校を出て大学に入ったばかりの純粋無垢な私は、このサークルにてピンクで
ちゃらけた人造人間に改造されたわけである。
そんなサークルの後輩の結婚式が先日開かれた。しかも新郎新婦ともに同じサークルだったので、
2次会・3次会はさながらサークルの同窓会だった。その3次会の席でのこと。
2次会を経て、3次会には約20名ほどが参加した。ほとんどがサークルの先輩・後輩で、飲み会は
酔っ払いの騒ぎ声と悪ふざけ感が漂うアルカディア独特の雰囲気に包まれた。
そんな中、私はこともあろうに先輩集団の中にいた。こんな時くらい組し易い後輩集団を捕まえて、
お山の大将さながら気楽に飲むべきだったが、なぜか私は先輩集団の中にいた。
宴もたけなわになってきた頃、私の左前方に位置する先輩Tが酔って難癖を付け出した。
先輩T 「ささはらな、おまえその髪長すぎるって。」
私 「いや、でも結構気に入ってるんですけどね。」
先輩T 「あかん。俺が切ったる。店員さん、ハサミ貸して~。」
私 「わ~、それは勘弁してくださいっ!!」
なんとか切られることは免れたが、私のテーブルの前にはちょこんとハサミが置かれる事となった。
しばらくして、前方の後輩M及び左に位置していた先輩Mが
後輩M 「でもやっぱり切ったほうがいいですよ~」
先輩M 「ほや、ささはら、もうええやん、切れや。」
私 「もうほんま勘弁してください」
この場もなんとか逃れた。
すると、私の右前方に位置していた先輩Kがその会話の匂いをかぎつけた。この先輩が一番の
危険人物だった。サークル内で数々の逸話を残す彼は行動力&表現力&カリスマともに
すばらしいものを持ってはいるが、悪逆非道能力もケタが外れていて……というより脳みその
タガが外れていて、特に私に対しては傍若無人であった。そんな彼の前にハサミがちょこんと
置かれていたわけである。
案の定、彼は難癖をつけだした。
先輩K 「おまえ、俺に憧れてんねやろ。」
先輩Kも髪が長い。だが真似したわけではなく、私の理想は竹之内豊であった。
先輩K 「じゃあおまえ、俺がこの髪切ったらおまえも切れよっ!」
私 「……え?」
なぜそうなる?ま、でも、いうほど酔ってなかった私は、まさか自分の髪を切りはしないだろうと
たかをくくっていた。
先輩K 「俺がこの髪切ったらおまえも切れよっ!」
私 「え?あの~……」
ここできっぱりとNO!!というべきであった。
先輩K 「俺がこの髪切ったらおまえも切れよっ!」
何度も確認をした先輩Kは目の前のハサミを握ったかと思うと
「ぬがああぁぁぁぁ!!!!!」
と奇声を発し、自分の髪の毛にハサミを当て
ザクッ!!
先輩K 「うらああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
彼は私の目の前に10cmはある髪束を指し示した。
この時点で私の理性のタガが外れた。ここまで挑発されて引き下がれない。3秒前まで
冷静だった私の脳内温度は急沸騰。負けるか魂が全会一致で可決された。
私 「ほんなら私も!!、ずりゃああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
目の前に置かれたハサミを握り、左手で適当に髪の毛をつまんで
ザクッ!!
私も彼の前に10cmはある髪束を指し示した。
先輩K 「まだまだぁぁぁぁ!!!!」
ザクッ!!
再び彼は気合もろともブチ切った髪の毛を私に示した。
私 「負けるかあぁぁ!おりゃあぁ!!!」
ザクッ!!
悔しいから私も気合で髪の毛をブチ切った。
この時点であっけに取られていた周囲が止めに入った。
そして、テーブル上には2人の髪の毛が散乱した。
~10秒後~
はっと我に返った私は……ちょこっと涙目。
左手で適当につまんだ髪の毛は、一番大事にしていた左前髪だった。
1年半かけて伸ばした私の前髪。ここに散る。しかも無意味な意地の張り合いにて無駄死に。
~おしまい~